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クッキークリッカーに見るユーザの意識の誘導

先週から一気に話題になっているCookie Clickerをプレイ中です。

one mindまで到達したため、少し思う所を書いてみました。
one mindのネタバレがあるので未プレイの方は注意を。


また、この記事は江添亮氏の次の記事にヒントを得て書いてあります。

本の虫: クッキー・クリッカーについて
本の虫: ババア補完計画

この記事がなければ私もここまで考察はできなかったかと思います。


このゲームはクッキーをクリックし、クッキーをひたすら増産していくというゲームです。
プレイヤーの目的はクッキーの増産であり、色々なシステムも全てその目的に集約される
単純明快さが急激なヒットの要因ではないかと言われていますが今回はそれとは別の切り口から見てみます。
それがタイトルにもある「ユーザの意識の誘導」です。

ゲームシステムがシンプルで分かりやすいというのは前提としておき、
プレイヤーの意識を誘導する仕組みが非常に巧妙に組まれているのも多くの人がはまった原因ではないかと。
また、作者であるOrtail氏が狙っているのもそこではないかと考えています。


どのようにゲームが進んでいくか、順を追って確認してみます。

まず、最初は画面が動いていません。
そのような中で画面を見てみると左に大きなクッキーがあり、
これをクリックする事で所有するクッキーがカウントアップされていきます。

適当にクッキーを増やしていくと画面右のStoreで購入可能なアイテムのパネルが明るくなります。
最初はカーソルとババアであり、クッキーの数を増やすのを協力してはくれますが
まだプレイヤーがクリックする分の方が多いです。

とにかくクリックしてクッキーを増やしていくゲーム、というのが最初の認識でしょう。
この頃は通貨に近い役割も持っているとは言え、クッキーはクッキーです。

それからさらにゲームを進めていくと別のアイテムが買えるようになります。
次はFarm(農場)、Factory(工場)、Mine(鉱山)であり、
このあたりからプレイヤーのクリックよりもこれらの設備が作り出すクッキーの方が多くなり、
プレイヤーのクリックの影響が小さくなってきます。

この頃になるとクッキーは「施設で自動生産するもの」になり、
ゲームとしても資産を増やす経営シミュレーションの色合いが濃くなり、
クッキーにも通貨としての価値が強まってきます。


それからさらにゲームを進めていってもこの経営シミュレーション的な面には変わりがありませんが、
だんだんとゲームの雰囲気が変わってきます。
それは「社会問題」及び「禁忌」に触れる要素の増加で、これこそがOrtail氏の仕掛けた大掛かりなトラップです。

このままゲームを進めていくと「あれ?」と引っかかる要素が出てくるようになります。
例えば工場のアップグレード用アイテムには「Child labor(児童労働者)」や「Sweatshop(労働搾取工場)」があります。
また、画面中央の上部に出てくるニュースにも
「鉱山で落盤があり作業員が死亡」や「工場は温暖化に関係している事が判明」など、
社会的な事件・問題がピックアップされるようになってきます。

そしてさらにゲームを進めていくと、「禁忌」の領域へと踏み込んでいきます。
鉱山の次の施設の輸送船というのはクッキー星に行ってクッキーを取ってくるというものですが、
この時点で地球の外に行っての資源の略奪が行われ始めています。
その次の施設の錬金ラボは金をクッキーへと変換するというもので、
ポータルは異次元のクッキー界への扉を開いてそこからクッキーを持ってくるというもの、
タイムマシーンはクッキーが食されるようになる前の時代からクッキーを持ってくる、(タイムマシンは正しい邦訳が分かりませんでした)
最後の反物質変換器は反物質からクッキーを生成するというものです。

後半の施設に共通するのは、今の現実世界では何かしらの生産方法として確立されている技術ではないし、
これらの領域から資源を持ち出すのは禁忌とされるという事です。
憶測ですが、「輸送船」よりも「錬金ラボ」の方が生産効率が高いのって錬金術の方が禁忌度が高いと考えたからではないかと。

このように社会問題を引き起こしたり禁忌に足を踏み入れるとなると
プレイヤーのやっている行為には「悪行」の側面が入るのですが、
それではこのような悪行を行う事によるプレイヤーへのペナルティがあるかと言われると、特にありません。

これは非常に珍しいゲームデザインではないかと思います。
通常プレイヤーが悪行を行う選択肢が与えられるゲームではその悪行はハイリスクハイリターンで設定されています。
ここでの「悪行」とはゲーム制作側が想定していない裏ワザではなく、制作側が想定しており、行う自由は提示されているものです。
例えばスターオーシャン2でのピックポケット(スリ)やリバースサイド(紙幣や書類の偽造)、
不思議のダンジョンシリーズでのダンジョン内の商店でアイテム持ち逃げなどです。
どちらもノーリスクで行えるものではなく、ペナルティがあります。
ゲームルールの範疇で悪行を許す代わりにリスクがつきまとうのはゲーム設計としては自然な発想で、
むしろゲームデザイナーでこの発想から抜ける事ができる人の方が稀少ではないかと。

しかし、このCookie Clickerではペナルティがありません。
色々と不穏なニュースが出たりしますがシステム的には何らの悪影響もありません。
また、そもそも「悪行を行う」とプレイヤーが明示的に選択しているわけでもありません。
例えば禁忌に足を踏み入れるような後半の施設は前半のものとシステム的に違いはないし、
環境破壊のニュースなどもこのゲーム内のクッキー資産を増やす際に施設を増やした結果であり、
そういう問題を起こすと分かってやった事ではありません。

では、このような「悪行」に対するペナルティがないのはゲームの設計的な欠陥かというとそうではなく、
ゲーム的なリスクとリターンのバランスとは全く別の狙いがあってこのようにしていると考えます。
それは何かというと、プレイヤーの道徳心の麻痺です。
道義的な悪行とゲームシステム上のリスクがリンクしていると、
プレイヤーも道徳とゲームプレイヤーとしての利害判断がリンクし、
その両面からブレーキがかかるようになります。
このゲームはそれとは逆で、システム的には善と悪の区別はなく、
全てはクッキーの生産数を増やすために用意されているように見せています。
その結果、無意識のうちに道徳心のブレーキを取っ払うように仕向けています。

このような要素を通してクッキーが貨幣さえ越えて金や富のメタファーとなり、
プレイヤーは「クッキー資産を集めるために環境破壊や禁忌に身を投じる事も辞さない亡者」
というメンタリティを徐々に植えつけられていきます(ゲームの中とは言え)
ここは英語を読める度合いによって受け取り方に差異がありそうですが、
作者の狙いはこのようなものであるに違いないと思っています。
英語が分からなくてもババアがどんどん異形化していくのは視覚的にも分かりやすく、
どんどんおかしな方向に進んでいるというのは何となく感じ取れるかと思います。


このように社会問題を引き起こし、異次元や過去、反物質からもクッキーを集め続け、
プレイヤーの感覚が麻痺していった頃に「one mind」というアイテムが投入されます。
「one mind」が購入可能な状態になる頃には多くのプレイヤーが
このCookie Clickerの世界を「そういう世界観なんだ」と受け入れているだろうし、
予備知識がなければ普通に購入しようとしていたでしょう。
これを購入しようとすると、そこで初めてゲーム側からプレイヤーに「本当にいいの?」と警告が発されます。
ここまではどのような選択肢でも警告は発されず、選択したものが即反映されるようになっていました。

そしてこの警告を受けても誘惑に抗えず「one mind」を購入すると背景が禍々しいものに変わり、ニュースも一変します。
今までのような施設での事故や環境破壊のような問題を突き抜けて、世界が終焉へと向かっていくような内容になります。
最初は老婆の失踪や奇行の情報、続いて老婆の身体への異変、そして最後には肉が世界を覆っていくようになります。
その後、ババアを宥めるアイテムを買う事で事態の収束を図る事ができますが……

Cookie Clickerの物語はこれで終わりになり、後は延々とクッキーを稼ぎ続けるエクストラモードになります。
(まぁ、元から際限なくクッキーを作り続けるゲームですが……)

ここまでの一連の流れを振り返ってみて世界に未曾有の大混乱、
通称「ババアポカリプス」をもたらしたのは誰かと考えてみると、
メタ的には「one mind」の購入に踏み切ったプレイヤーであり、
さらにはそれを買うように巧妙に誘導してきた作者になります。

クッキーは「富」のメタファーであると上で書きましたが、
「one mind」購入により起こされるババアポカリプスはそれに相対する
「富を求めすぎた者への罰」のメタファーではないかと考えます。
そしてこのような状態にプレイヤーを感情移入させるために
「クッキーを過剰なまでに求める」価値観にあらかじめ慣れさせておき、
「one mind」で警告されてもなお先に進もうとするように仕向けていました。
(ここで警告なしだとプレイヤーが「敢えてそれを選択した」実感がだいぶ下がっていたと思う)


クッキーをメタファーに利用していますが、
プレイヤーが欲望を肥大させていった結果世界が終焉を迎えるというのは非常にキリスト教的終末観で、
またそこに到達するように意識を誘導しているのが正に悪魔的な手法かと思います。

見事なエンターテイメントを見せてくれたOrtail氏に賛辞を。本当に楽しませてもらいました。

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